Eテレで放送されている「びじゅチューン!」の楽曲、「見返りすぎてほぼドリル」。一度聴いたら最後、頭の中で無限にループしちまうあのメロディと、着物姿の女性が高速回転してドリルになるっていうシュールすぎる映像は、一度見たら忘れられない強烈なインパクトがある。
「見返り美人」が振り返りすぎて、最終的にドリルになるって発想、普通は出てこない。でも、この設定の裏には、ちゃんとした元ネタの美術作品がある。というか、元ネタを知ることで、この曲の面白さが倍増する。
ということで今回は、「見返りすぎてほぼドリル」の元ネタになった作品と、そこから着想を得た歌詞の世界観について、俺なりに解説していきたいと思う。
【結論】元ネタは見返り美人図
いきなり結論から言ってしまうと、この曲の元ネタは、誰もが一度は歴史の教科書で見たことがあるであろう、菱川師宣(ひしかわもろのぶ)作の「見返り美人図」なんだ。

この絵に描かれている女性、ただの美人ってだけじゃない。実は彼女、江戸時代元禄年間の最新ファッションに身を包んだ、いわば当時のスーパーモデルであり、トップインフルエンサーだったってわけ。
びじゅチューン!の作者である井上涼さんは、この「見返り美人」っていう言葉のインパクトから、「そんなに見返り続けてたら、そのうち体がねじれてドリルになっちゃうんじゃないか?」というとんでもない発想に飛躍した。この曲は、そんなユニークな視点から生まれた作品なんだ。
「見返り美人図」ってそもそも何?
まず元ネタの「見返り美人図」について軽く触れておきたい。これは江戸時代初期に活躍した浮世絵師、菱川師宣によって描かれた肉筆画、つまり一点ものの作品だ。
浮世絵っていうと版画のイメージが強いけど、これは師宣が直接描いた作品で、彼の代表作の一つとされている。しなやかに振り返る女性の一瞬の姿を切り取ったこの構図は、当時としても非常に斬新で、多くの人々の心を掴んだらしい。
美人画の革命児、菱川師宣
菱川師宣という人物は、それまで絵本の挿絵なんかが中心だった浮世絵を、一枚の独立した鑑賞作品として確立させた、「浮世絵の祖」とも呼ばれる超重要人物。
彼が登場するまで、美人画といえば遊女や特定の誰かを描くのが主流だったんだけど、「見返り美人図」の女性はモデルが誰なのか特定されていない。あえて名もなき一般女性を描くことで、見る人の想像力をかき立てる。そんな新しい美人画のスタイルを確立したのが師宣だったんだ。
「見返りすぎてほぼドリル」の歌詞から読み解く見返り美人の姿
びじゅチューンの歌詞を見ていくと、この「見返り美人図」の背景がさらに面白く見えてくる。
歌詞のテーマ①:江戸時代のトレンドセッター

曲の中で彼女は「街中が知ってる」なんて歌われているけど、これはマジでその通りだったっぽい。
参考資料にもある通り、彼女が着ている着物の柄、華やかな帯の結び方、そして結い上げた髪型、そのすべてが元禄時代の流行の最先端。今でいうハイブランドの最新コレクションを身にまとっているようなもんだ。
だから彼女が街を歩けば、誰もがそのファッションに注目し、憧れの眼差しを向けていたはず。歌詞にあるように、彼女はただ美しいだけじゃなく、時代のファッションを牽引するカリスマ的な存在だったってわけだ。
歌詞のテーマ②:恋する乙女、ジョセフへの熱視線
「見返り美人図」は、ただ女性が振り返っているだけの静かな絵。そこにびじゅチューン!は「ジョセフ」という恋する相手を登場させることで、全く新しい物語を生み出した。
絵の中で彼女が誰に視線を送っているのかは不明。でも、曲の中ではその視線の先には恋するジョセフがいることになっている。彼女はジョセフのことが好きすぎて、何度も何度も「チラチラ」と振り返ってしまう。
この「好きすぎて見ちゃう」っていう乙女心が、彼女をドリルに変えてしまう原動力になってるんだ。一枚の絵からここまで壮大なラブストーリーを想像する井上涼さんの発想力には脱帽するしかない。
「ドリル化」がもたらすまさかの社会貢献
そしてこの曲の真骨頂は、彼女の「ドリル化」が思いもよらない形で社会の役に立ってしまうところにある。
最初はただの恋する乙女の個人的なクセだったはずの「見返り」が、ドリルという形になることで、とんでもないパワーを発揮するんだ。
- 洗濯物や干物がよく乾く高速回転が生み出す風で、洗濯物が一瞬で乾く。主婦たちから絶大な支持を得る。
- 穴をあける親方に頼まれて、そのドリルで地面に穴をあける。もはや公共事業のレベル。
- 隕石の軌道をそらす極めつけは地球に迫る隕石をその回転で逸らしてしまう。まさかの地球防衛。
恋する気持ちが強すぎて始まった高速回転が、最終的には地球を救う。この壮大なストーリー展開が、静かな一枚の美人画のイメージを完全に覆してくる。これがびじゅチューン!の醍醐味なんだよな。
元ネタを知ると面白さが倍増する
「見返りすぎてほぼドリル」は、ただの面白い歌じゃない。日本の美術史に残る名作「見返り美人図」をベースに、そこに大胆な解釈とストーリーを加えることで、全く新しいエンターテイメントに昇華させた作品なんだ。
元ネタの女性が、ただ振り返っている美人ではなく、江戸時代のファッションシーンをリードするほどの存在だったと知ることで、なぜ歌の中で彼女が街中の注目を集めているのか、その理由にも納得がいく。
この曲を知ってから東京国立博物館で「見返り美人図」を見ると、もう彼女がドリルにしか見えなくなるかもしれない。でも、それこそが美術作品の新しい楽しみ方なんだと思う。美術ってのは決して高尚で難しいもんじゃなくて、もっと自由に、面白がっていい。びじゅチューン!は、そんな美術の新たな扉を開けてくれる最高のコンテンツだってわけだ。
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