Eテレで放送されている「びじゅチューン!」で、やたらと心に沁みる曲がある。それが「お豆腐たちの卒業旅行」なんだ。どこか切なくて、でも前向きな気持ちにさせてくれる。なんてったって、豆腐たちが卒業旅行に行くっていう発想がすごい。
「なんで豆腐が卒業旅行?」って疑問に思う人も多いと思うんだけど、もちろんこれにはちゃんとした元ネタの美術作品がある。今回はその元ネタがどんな作品で、そこからどうやってあの物語が生まれたのか、俺なりに解説していきたい。
【結論】元ネタは高橋由一の「豆腐」という一枚の絵画

結論から書くと、「お豆腐たちの卒業旅行」の元ネタは、高橋由一という画家が描いた「豆腐」というそのまんまのタイトルの油絵なんだ。
この絵は、香川県にある金刀比羅宮(こんぴらさん)が所蔵していて、併設されている高橋由一館で見ることができる。そう、何を隠そう、歌の目的地である「こんぴらさん」は、この絵が実際に飾られている場所ってわけ。
一見するとただ豆腐と油揚げ、焼き豆腐がまな板の上に置かれているだけの静物画。なのに、ここからあの大学生たちの卒業旅行という壮大な物語が生まれてしまうんだから、発想の飛躍が半端ない。
「お豆腐たちの卒業旅行」の発想の源を解説
じゃあ、井上涼さんはこの一枚の絵からどうやってあの物語を思いついたのか。その発想のポイントは大きく3つある。
【発想①】豆腐たちの絶妙なキャラクター設定
まず注目したいのは、絵に描かれた三者の質感。高橋由一は、それぞれのモチーフへの愛情が深いのか、豆腐、焼き豆腐、油揚げの個性をものすごくリアルに描き分けているんだ。
- 豆腐: まだ何も手が加えられていない、真っ白で少し角がしっかりしている。真面目でちょっとカタブツな優等生タイプを彷彿とさせる。
- 焼き豆腐: 表面には焼き色がついて、少しラフな印象。豆腐よりは少しやんちゃで、物怖じしない性格が想像できる。
- 油揚げ: こんがり揚がっていて、三者の中では一番手が込んでいる。世の中の酸いも甘いも知っていそうな、ちょっと甘え上手なプレイボーイ的な雰囲気すら感じる。
この絵から感じられる質感の違いが、そのまま「まじめな豆腐」「ラフな焼き豆腐」「甘え上手な油揚げ」っていうキャラクター設定に繋がっているんだ。一枚の絵からそれぞれの性格や育ち方まで想像させる高橋由一の画力も凄いが、それを的確に読み取ってキャラクターに昇華させる井上涼さんの観察眼もヤバい。
【発想②】ルームシェアする大学生という着眼点

次に、この三者の配置を見てほしい。まな板の上に、三者がキュッと身を寄せ合うようにして横たわっている。この様子が、まるでワンルームの部屋で共同生活を送る大学生みたいに見えた、というのが次の発想のポイントなんだ。
歌の中でも「まな板3DKで2年」っていうフレーズが出てくるけど、まさにこの絵のまな板を部屋に見立てている。狭い部屋で肩を寄せ合って過ごした仲間、っていう設定がこの絵の構図から生まれているってわけ。
確かに言われてみれば、豆腐と焼き豆腐が重なり、その上に油揚げが覆いかぶさるように乗っている様子は、川の字で寝ているようにも見えるし、狭いコタツに3人で足を突っ込んでいるようにも見えてくる。この「見立て」のセンスがすごい。
【発想③】卒業旅行へ向かう物語というストーリー

そして最後の決め手となったのが、絵全体の構図。三者はまな板の少し左に寄って配置されていて、右側には余白がある。この配置が、まるで三者全員で画面の右側に向かってこれから移動していくように見えるんだ。
「彼らはどこへ行くんだろう?」
この問いに対して、「ルームシェアしていた大学生」という設定が掛け合わさることで、「卒業旅行」という最高の答えが導き出された。
まさに卒業を控え、ルームシェアを解消し、それぞれの道へ進む前の最後の思い出作り。そう考えると、この絵に描かれた豆腐たちの寄り添う姿が、名残惜しさと未来への期待が入り混じった、卒業間際の大学生たちの姿に重なって見えてくるから不思議だ。
歌詞の意味を俺なりに考察してみる
この曲の歌詞は、そんな卒業旅行のワンシーンを切り取った内容になっている。特にグッとくるポイントを俺なりに考察してみたい。
シェアハウス生活の終わりと名残惜しさ

歌いだしでは、まな板の部屋で2年間ルームシェアした生活がもうすぐ終わることへの寂しさが歌われている。
聴き込んだプレイリストを車で流しながら、免許を持っているのに運転は他の2人に任せてしまうあたりに、甘え上手な油揚げのキャラクターがよく表れている。
似た者同士だと思っていた仲間たちが、実はそれぞれ違う道を歩むことになる。時代の変化を示す足音が聞こえてきても、「あとちょっとだけ一緒にいたい」という気持ちが、卒業を経験したことがある人なら誰しも共感できる部分じゃないかと思う。この「もう少しだけ」っていう名残惜しさが、この曲の切なさを表しているんだ。
ナビ通りのはずが…旅にトラブルはつきもの

そして卒業旅行のハイライトとも言えるのが、目的地である「こんぴらさん」への道中。ナビ通りに来たはずなのに、焼き豆腐の「こっちが近道な気がする」というラフな一言で道に迷ってしまう。
こういう根拠のない自信や、ちょっとした思いつきで行動してトラブルになる感じ、すごく「あるある」じゃないか?
真面目な豆腐はきっとナビ通りに行きたかったはず。でも、仲間との旅だからこそ、その場のノリや勢いが勝ってしまう。計画通りにいかないことすらも、後になれば笑い話になる。そんな卒業旅行の空気感が見事に表現されている。
数年後の再会と変わらない関係性
物語の最後は、数年後に社会人になった豆腐のシーンで締めくくられる。オフィスで仕事をする豆腐は、少しだけ角が取れて丸くなったように見える。
大人になって、見た目や環境は変わってしまっても、ふとした瞬間に昔の仲間との日々を思い出す。そして、きっとどこかでまた交わることがあるだろうという希望を感じさせてくれる終わり方なんだ。
カフェでお茶でもしながら待ってるよ、という仲間からのメッセージは、離れていても変わらない友情の証。この曲は、単なる卒業ソングではなく、その先も続く仲間との関係性を描いた人生の応援歌でもある、というのが俺の結論だ。
元ネタの絵画は金刀比羅宮で鑑賞可能

この感動的な物語の元になった高橋由一の「豆腐」は、香川県の金刀比羅宮、通称「こんぴらさん」の敷地内にある高橋由一館に展示されている。
金刀比羅宮といえば、本宮まで続く785段の長い石段が有名。歌の最後でも、お豆腐たちがこの石段を登っていくシーンが描かれている。真面目な豆腐がストイックにスタスタ登っていくのに対し、他の二人がついていけずにカフェで待っているというオチも、彼らのキャラクター設定が見事に反映されていて面白い。
もし「お豆腐たちの卒業旅行」に心を打たれたなら、一度こんぴらさんを訪れて、長い石段を登り、本物の「豆腐」の絵を鑑賞してみるのもいいかもしれない。きっと、ただの豆腐の絵が、特別な物語を持って見えてくるはずだ。
【まとめ】一枚の絵から広がる壮大な物語だった
「お豆腐たちの卒業旅行」は、高橋由一の「豆腐」という一枚の静物画から、ここまで豊かなキャラクターとストーリーを生み出した、まさに「びじゅチューン!」の真骨頂と言える作品だった。
何気ない日常の一コマを描いた絵に、大学生の卒業という普遍的なテーマを重ね合わせることで、多くの人が共感できる感動的な物語に昇華させている。モチーフへの深い観察眼と、そこから物語を飛躍させる想像力。この二つが組み合わさって、この名曲が生まれたというわけだ。
たかが豆腐、されど豆腐。一枚の絵をきっかけに、豆腐を見る目が少し変わるかもしれない。そんな新しい美術の楽しみ方を教えてくれるのが「びじゅチューン!」の魅力なんだと改めて思うなどした。という結論で終わる。
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